スマート・メソッド2026.04.30

トップエグゼクティブのダイエット習慣Part01 40代で腹が出るのは歳のせいではない

Part 1 / 10:40代で腹が出るのは、歳のせいではない

40代で体が変わりはじめると、多くの人が「代謝が落ちたから仕方ない」と口にします。健康診断のたびに腹囲を指摘され、糖質制限を試みては続かない。その繰り返しの根底には「代謝低下は不可逆」という思い込みがあります。ところが、世界29か国6,400人超を実測した2021年の大規模研究は、20代から50代までの基礎代謝はほぼ落ちないと結論づけました。腹が出ている本当の原因は、歳ではなく、別の仕組みが静かに動いています。このPart 1では、40代男性の肥満率のリアルと「代謝神話」の誤り、内臓脂肪がビジネスパーソンにもたらす経営リスクまでを、一次データで解き明かしていきます。

35.8%——40代男性の3人に1人は肥満領域にいる

厚生労働省「令和4年国民健康・栄養調査」によると、40歳代男性でBMI25以上に該当する「肥満者」は35.8%でした。50歳代では38.3%にまで上がります。40代・50代の男性は、およそ3人に1人が医学的基準での肥満領域に入っている計算です。

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図1:男性の年代別肥満者割合(BMI≥25) ── 厚生労働省「令和4年国民健康・栄養調査」より作成

一方、同じ調査での20歳代男性の肥満率は25.7%です。つまり20代から40代にかけて、およそ10ポイントも肥満率が上昇しています。この変化を「加齢で代謝が落ちたから」と説明するのが長らく通説でした。しかし、ここに見過ごされがちな矛盾があります。もし代謝の自然低下だけが原因なら、摂取カロリーを少し減らせば済むはずです。ところが現実には、同じ食生活を続けているつもりなのに、なぜか3年前とスーツのシルエットが違う、という現象が起きます。食べる量は変わっていない、むしろ減らしているのに太る。こう訴える40代の管理職は珍しくありません。

ポイントは、変わっているのがエネルギー出納だけではないことです。食事量と運動量の帳尻を見るだけでは説明しきれない。体そのものの組成——筋肉と脂肪の比率——が、10年かけてゆっくりと別の形に変わっています。この「体組成シフト」が、40代以降の太りやすさの根本原因にあります。

代謝は50代でもほとんど落ちない——Pontzer論文が証明したこと

2021年、米科学誌『Science』にデューク大学のハーマン・ポンツァー博士らが発表した論文が、代謝の常識を覆しました。生後8日から95歳まで、29か国の6,421人を対象に、水分子の動きを追跡する「二重標識水法」で総エネルギー消費量を実測した、現時点で最も精度の高い大規模研究です。

これまでの代謝研究の多くは、自己申告の食事記録や数十人規模の測定に頼ってきました。二重標識水法は、安定同位体で標識した水を飲んでもらい、体内での酸素と水素の消失速度差からCO2産生量を逆算して、総エネルギー消費量を数日間にわたり客観的に測定します。誤差は自己申告法と比較にならないほど小さく、肥満研究のゴールドスタンダードとされている手法です。研究チームはこのデータを29か国分集約し統合解析を行いました。

結論として明らかになったのは、人間の代謝率が人生で4つの段階を通るということです。乳児期に急上昇し、1歳時点で成人の約1.46倍まで到達する。そこから20歳にかけてゆるやかに下降し、20歳から60歳までは除脂肪量あたりの代謝率がほぼ一定に保たれる。代謝が明確に落ち始めるのは60歳を過ぎてからで、その低下率も年0.7%という驚くほど緩やかな速度でした。

ライフステージ

年齢

代謝率の変化

特徴

乳児期

0〜1歳

成人の約1.46倍まで急上昇

急速な成長に伴う代謝の爆発的増加

小児〜思春期

1〜20歳

年約3%ずつ低下

成人レベルに向かって緩やかに収束

成人期

20〜60歳

ほぼ一定(安定)

除脂肪量あたりの代謝率は変わらない

高齢期

60歳以降

年0.7%ずつ低下

90代で成人期比マイナス約26%

図2:人間の代謝率の4段階 ── Pontzer et al.(2021)Scienceに基づき作成

この結果の意味は大きい。「30代後半から代謝が急に落ちる」「40歳を過ぎたら何をしても太る」といった巷の定説は、6,421人分の実測データの前では成り立ちませんでした。30代・40代・50代の代謝は安定しており、妊娠期ですら例外ではなかった。エグゼクティブが40歳を境に感じる体型の変化は、代謝という仕組みが劣化しているから起きるのではないのです。

落ちているのは、代謝ではなく筋肉

では、何が落ちているのでしょうか。答えは筋肉量です。

国立長寿医療研究センターなどがまとめたサルコペニアに関する研究報告では、運動習慣のない成人の場合、30歳ごろから筋肉量は年0.5〜1%ずつ減少するとされています。40歳から50歳までの10年間を放置すれば、5〜10%の筋肉が失われる計算です。体重70kgの男性で骨格筋量がおよそ28kgと仮定すれば、10年で1.4〜2.8kgの筋肉が、自覚のないまま脂肪に置き換わっていきます。体重計の数字はほとんど変わらないのに、ベルトの穴が一つ外側に移る。その正体がこの筋脂肪の入れ替わりです。医学ではこの現象を「サルコペニア肥満」と呼び、見かけ上の体重が正常でも代謝異常や循環器リスクが高まることが報告されています。

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図3:運動習慣なしの場合の加齢に伴う筋肉量推移(30歳=100%) ── サルコペニア研究報告より概算

ここで注目すべきは、代謝の主要な決定要因が除脂肪量——ほぼ筋肉量——であるという事実です。ポンツァー博士らの論文は、総エネルギー消費量が除脂肪量の0.7乗に比例する(TEE=0.677×FFM^0.708)と数式で示しています。代謝の仕組みそのものは加齢しても変わらない。ところが代謝の「原資」となる筋肉が毎年目減りしていく。その結果、10年前と同じ食事量でも体重が増え、脂肪がつきやすい体ができあがるのです。

エグゼクティブの日常を当てはめれば、筋肉量の減少スピードはさらに加速します。会議とメールとリモート会議で1日8時間以上座り続け、夜の会食では高脂質の食事とアルコールを取り、睡眠は慢性的に6時間を切る。筋肉への物理的な刺激が日常から消えた環境では、加齢による自然減の上に、使われないことによる廃用性の減少が重なります。「代謝が落ちたから太った」は、因果の矢印が逆です。筋肉が減った結果として代謝の原資が目減りし、太りやすい体が仕上がった——こちらが正しい順序です。

内臓脂肪は、経営判断を鈍らせる

腹が出ること自体を見た目の問題ととらえているうちは、行動に移せません。内臓脂肪が引き起こす医学的リスクを、経営リスクの言葉に翻訳してみます。

米国のFramingham心臓研究は、平均年齢50.2歳の3,086人を5.0年間追跡し、CT画像で内臓脂肪量を定量化した前向きコホート研究です。解析の結果、内臓脂肪量が1標準偏差増えるごとに、心血管疾患のハザード比が1.44(95%信頼区間1.08〜1.92、P=0.01)に上昇しました。BMIや腹囲とは独立した、内臓脂肪量固有のリスクです。がん発症リスクについてもハザード比1.43で有意な関連が確認されています。日本肥満学会が男性の腹囲85cm以上をメタボリックシンドロームの必須項目に据えているのも、この内臓脂肪由来のリスクを捕捉するためにほかなりません。

経営側の損失としても数字が出ています。経済産業省「企業の『健康経営』ガイドブック」によると、従業員の健康関連総コストのうち77.9%が「プレゼンティーイズム」——出社はしているが生産性が低下した状態——による損失です。病欠(アブセンティーイズム)の4.4%を大幅に上回る規模で、1人あたり年間およそ56万円の生産性ロスが目に見えないまま積み重なっている計算になります。内臓脂肪の蓄積は慢性的な疲労感、集中力の低下、睡眠の質の悪化と連動し、プレゼンティーイズムの直接的な温床になっています。腹が出ている状態は個人の見た目の問題にとどまらず、意思決定の質の劣化として、事業の利益率にまで影響を及ぼします。

「体重」を見るのをやめよう

こう整理し直すと、40代以降のエグゼクティブが最初に取るべき行動は明確です。カロリー制限型のダイエットは最適解ではありません。減らすべきは体重ではなく体脂肪であり、増やすべきは気合いではなく筋肉量です。

自宅の体組成計やジムの測定機には、骨格筋量や除脂肪量を表示する機能がついています。最初の一歩として、毎朝の計測を「体重」だけの記録から「除脂肪量(kg)」と「体脂肪率(%)」の2つの数字を記録する習慣に切り替えてみてください。食事制限だけで体重を落とすと、脂肪とともに筋肉も減ります。代謝のベースとなる除脂肪量が下がり、食事を戻した瞬間にリバウンドしやすい体質が仕上がってしまう。カロリーを絞るほどかえって太りやすくなる、という皮肉な構造がここにあります。

Part 2では、海外の一流CEOたちの多くが「走る」よりも先に「挙げる」を選ぶ理由を掘り下げます。有酸素運動より筋力トレーニングが先——この順番には、科学的に説明できる明確な根拠があります。

出典・参照

厚生労働省「令和4年国民健康・栄養調査結果の概要」2024年公表 https://www.mhlw.go.jp/content/10900000/001296359.pdf

Pontzer H et al. "Daily energy expenditure through the human life course" Science 373(6556):808-812, 2021 https://www.science.org/doi/10.1126/science.abe5017

健康長寿ネット「サルコペニアとは」国立長寿医療研究センター https://www.tyojyu.or.jp/net/byouki/frailty/sarcopenia-about.html

Britton KA et al. "Body fat distribution, incident cardiovascular disease, cancer, and all-cause mortality" J Am Coll Cardiol 62(10):921-925, 2013 https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/23850922/

経済産業省「企業の『健康経営』ガイドブック(改訂第1版)」

日本肥満学会「肥満症診療ガイドライン2022」